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第6話 お弁当作ってもいいですか?

مؤلف: 西しまこ
last update تاريخ النشر: 2026-06-10 06:00:41

 その日、波瑠はるは会社に来たときから、お昼を楽しみにしていた。

 何しろ、今日はお弁当があるのだ!

 昨日、千颯ちはやが深刻そうな顔で「波瑠さん、お願いがあるのですが」と言ったときは、てっきりこの、波瑠にはパラダイスな生活から抜け出したいのかと思った。ごはんを作るのが嫌になったのかと。

 しかし、そうではなかった。

「何、千颯くん」

「お弁当作らせてください。……いいですか?」

「お弁当! いいに決まってるじゃない! ていうか、私こそいいの? って思うけど?」

「はい。……あの、僕の分も作っていいですか?」

「いいに決まってるじゃないの!」

 千颯が学費やその他必要なお金をどのように工面しているかは、波瑠は知らなかった。ただ、お金がそんなにないことは何となく分かった。たぶん、お昼ごはん代も彼には負担なのだろう。

 波瑠はお弁当を作る提案を受けたとき、一瞬、ごはんを作ってもらうお金をあげようかと思った。しかし、千颯が受け取りそうもないなと思って、言うのをやめた。それに、お弁当も、千颯が作りたいときに波瑠の分も作るというものだったので、ありがたく「気まぐれお弁当の日」を受け入れることにした。

 そして、お弁当である!

 波瑠は、誰かが作ってくれるお弁当なんて、本当に久しぶりだ、と思った。

「どうしたの? 波瑠。今日はなんだか嬉しそうだよ」

 同期の瑛万《えま》に言われて、波瑠ははっと顔に手をやった。

「あのね、お弁当があるの!」

「お弁当。……珍しい」

「えへへ」

「……あ、なんかあるな! お昼休みに詳しく教えて!」

「うん!」

 お昼休みが待ち遠しい。

 ロッカーに入ったお弁当箱を思い浮かべながら、波瑠はにやにやすることが止められなかった。

 波瑠はケーブルテレビ局に勤めている。

 コンテンツ部に所属して番組制作をしており、忙しいけれど、毎日充実していた。

 仕事において、黒岩は非常に頼りになる存在であり、感性あるアドバイスに何度も助けられていた。

「でも、もういいや」

 恋人としては。

 恋人であるならば、自分のことを一番に見てくれる人でないと。

「何がもういいの?」

 気づくと瑛万がいて、キッチンカーで買ったらしいランチを手に側に立っていた。

「瑛万」

「お待たせ、波瑠。じゃ、食べようか」

「うん!」

 休憩スペースの一角で、波瑠は瑛万と食事を始めた。

 波瑠はどきどきしながら、お弁当箱の蓋を開けた。

 お弁当箱は、波瑠が学生時代に使っていた曲げわっぱだった。曲げわっぱはいくつかあり、一つは千颯がお弁当を詰めて持って行っていた。

 蓋を開けると、まず、黄色い卵焼きが目に入った。それから、牛肉入りのごぼうとにんじんのきんぴら。これは昨日の夜ごはんの残りだ。千颯が「残り物入れたんですけど、いいですか?」と言っていた。いいに決まっている! サラダにミニトマトもあり、白いごはんにはごまが少し乗っていた。

 おいしそう!

 波瑠は期待で胸がいっぱいになりながら、箸を取った。

「波瑠、それ自分で作ったの?」

「ううん、作ってもらったの!」

 誰かに作ってもらうお弁当って、それだけで何て幸福なんだろう!

 波瑠はまず卵焼きを食べた。

 優しい甘い味がした。

 波瑠が作る卵焼きは醤油ベースだけど、千颯の作る卵焼きは砂糖の味がして、仕事の疲れを癒した。ごはんを一口食べ、次にきんぴらを食べる。昨日のよりも味が染みていて、口の中いっぱいに甘辛の味が広がった。

「おいしい!」

 波瑠は思わず声を漏らす。

「……ねえねえ、そのおいしいお弁当、誰が作ってくれたの?」

 瑛万がにまにましながら聞く。

「あのね、年下の男の子に作ってもらったの!」

「波瑠、黒岩課長とつきあっていたよね? 浮気?」

「ううん、違う。千颯くんとはつきあっていないもん。それに、黒岩課長とは別れたし!」

「は? ――聞いてないけど?」

「ああ、言ってなかったっけ? もう嫌だから別れたの」

「いつ?」

「この間の飲み会のとき」

「……ああ、あれねえ。三人目が生まれたとかで、でれでれしていたわね」

「うん。でね、嫌になったから、即行ブロックしたの」

「え? 別れ話は?」

「……そう言えば、してない。もう話すのも嫌。全部消去して、ブロックした。想い出のものは全部捨てたわ」

「……波瑠……それ、黒岩課長はまだつきあっていると思っていると思うよ?」

「そう?」

「そうだと思うけど」

「でも、仕事はともかく、プライベートではもう二度と連絡とったりしないもん」

「……波瑠……」

 瑛万は頭を抱えた。

 波瑠はいい子なんだけど、こと恋愛になると、ちょっとネジが緩んでいて、普通の人とは違う反応をする、と瑛万は思う。瑛万は波瑠とは学生時代からの友だちで、波瑠のこれまでの恋愛を身近で全部見ていた。

 波瑠にはいつでも恋人がいた。

 だけど、ときどき、妙に冷酷になるときがある。

 それは、波瑠がその相手のことを本当に好きではないからだと、瑛万は思っていた。

「で? そのお弁当を作ってくれる年下くんとはどうなってるの? つきあっていないってどういうこと?」

「あのね、拾ったの」

「拾った⁉」

「うん。でね、一緒に暮らしているのよ」

「え⁉ 何、その急展開!」

「だって、毎日おいしいもの食べさせてくれるから」

 波瑠はにっこりと笑い、瑛万は呆然として波瑠の顔を穴があくほど眺めた。

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     千颯との生活はとても静かで、そして快適だった。 「波瑠さん、ごはんですよ」  毎朝、千颯にそう言って起こされる。  襖越しに聞く「ごはんですよ」が嬉しくてたまらない。  毎朝千颯に起こされるのに慣れてしまって、波瑠は目覚ましをかけることをしなくなった。  ごはんですよって起こされるのって、なんて甘美なんだろう……!  波瑠は「ごはんですよ」にうきうきしながら、台所に行く。「今日はパンケーキです。波瑠さん、好きでしょう?」 「パンケーキ! 好き!」  波瑠が席につくと、千颯はパンケーキの乗ったお皿を波瑠の前に置いた。小さなサラダもあり、

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